お優しそうなK様ご夫婦が、書を手にご来店されました。
ご夫婦のご要望は、亡きお父様の書を軸に仕立て上げたい、との事。

こちらがその作品です。
とても立派です。

before1  before2 
これらは数十年の前の作品なのでしょうか。
古く多少のシミや破れはありますが、大切にされていたことは伝わってきます。

この作品はずっと仕舞われていたらしいのですが、ある時お父様からのお手紙を見つけました。
 『余裕が出来たら表具屋さんに出しなさい。』

・・・そしてタイミングが整った今、これはちゃんとしなくてはと、軸装をされにご来店されました。

下の画像が仕立て上げた軸装です。
after1爽やかで高潔な仕立て上がりです 

 after2穏やかで心落着く軸装です 


以下はK様の奥様からいただきました。

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義父は、乾燥椎茸栽培とゴルフ場要地の不動産売買などを50歳で引退して、色々な趣味に没頭してました。
中でも書が中心だったと記憶してます。

そんな時、私達の新居が、完成したあと何枚かの書を貰った記憶があり
余り興味が無かったので、和箪笥の中にしまったまま20数年があっという間に過ぎてしまいました。
義父も亡くなり数年が経ちます。

ふとした事から和ダンスを開けてタトウ紙の
中に義父からの手紙が入っておりました。
『余裕が出来たら表具屋さんに出しなさい。』と

私も色々あり人生の最終に来て、「人間万事塞翁が馬」と「龍鳳」の
言葉の意味が深く染みいり、義父の愛情を深く噛み締めております。

シミだらけの書をこんなにも綺麗に修復して下さり感謝しております。
和室に行くたび義父を感じております。
ありがとうございました😭。
(一部抜粋・加筆)
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作品を軸装される理由は、ご自身の会心の作品をより立派に披露したいというお気持ちが多いのでしょうが、
近しい方のお心を今に伝え、そして次世代に伝える場合もあります。
今回のK様ご夫妻はその典型例でしょうか。

軸装(額装もそうですが)をすることで、作品そのものは変わらないものですが、
装丁を施すことにより、作品自体が持っていた、そしてその人の奥底の志や想いが
より一層クッキリと伝わってくることがあります。

それにより、その作品(軸装・額装)を通して、その作品や作られた方(又はその想い)と
観る方の距離がずっと引寄せられ、時空を超えた「対話」が出来ること、
それが一番の「効用」なのでしょう。

K様、今回の軸装により、こうした想いを知ることが出来ました。
しみじみとした感慨深い気持ちにさせていただきました。

この度は、誠に有難うございます。