秋桜の花が見ごろを迎えるころ、 埼玉県上尾市にある『榎本クリニック』様の関係者の方より、「看板額装」のご依頼を受けました。   『圧倒的な、迫力と気概』 これが、その看板の第一印象でした。    

before 『仁術』看板表面

 

 

before 『仁術』看板裏面     裏側を見ると、ご結婚のお祝いに贈られた記念の看板だということが分かりました。   先代の大先生の時代、70~80年も前から、当時としては珍しく、手術をし入院も受け入れて来た『榎本外科医院』様。   この古い棟の待合室で、この様に木肌を活かした状態で、来院されるたくさんの方々を見守り続けて来ました。   無垢一枚板の看板に刻まれた『仁術』という言葉が表すが如く、現在の院長先生の代になってからも、 その気概は引き継がれ、   榎本クリニック様は、 患者さまにとっての医療の窓口として、また、肝臓内科・内科・小児科・皮膚科の専門機関として機能し、   新しい患者様を受け入れつつも、大先生の時代の患者様にもずっと頼りにされ続けています。   そんなクリニック様の額装への唯一のご要望。 『裏書をいつでも見られる様に』   贈り主様の気持ちをいつまでも大切にしたいという想い。 制作する際、このたった一つのご要望を大切に、何とか良い額装にしたいと思い取り組みました。   お預かりした看板は、亀裂を生じてはいましたが、年月が経っているにもかかわらず、とてもきれいな状態でした。  

before 力強い彫刻と歴史を表現する亀裂   長い間に看板の上部に生じた亀裂は、生きている木材が空気の流れや湿気、乾燥を受けつつ呼吸を続けてきた証であります。   大胆に力強く刃を入れられた看板は、 「並々ならぬ決意を以て医道へ臨む」ことの尊さを物語っているかのようです。  

before 看板側面   厚さもしっかりある無垢一枚板を使用した重厚な看板。 堂々とした大きさや重量。 大胆に削られた凹凸。 生きている木が反ったりよじれたりするその性質。   これら故、通常の額装ではとても対応出来ません。   そこで、「浮かし」という特殊な手法を用いた額装を取り入れる事に。 どの様にしたら、大先生の時代の患者様や皆様に喜ばれるものを作れるのか。 職人と深く話し合い、完全オーダーメイドで一からスタートです。   額に収まるように、無垢一枚板の変化をある程度抑えることと、害虫の影響を受けにくくするために行う特殊な塗装。 額に適した材質や、木目を考慮した木材選び。 クリニック様の待合室の雰囲気に合い、看板が品良く引き立ち、皆様に愛される色味選び。   シャー シャー シャー シャー…        トントン トントントントン…   職人の技を駆使し、細部や、見えないところまで配慮した額装が、少しずつカタチになっていきます。  

いよいよ、完成間近   上部の亀裂は、何もなかった様に自然に修復されました。   長年幹を守ってきた戦士の様な樹皮や、 命を吹き込まれたかのような木彫りのエネルギーがそのまま生かされ、 更に「浮かし」という特殊な手法により、看板が奥行きをもって引き立ちます。   クリニック様の唯一のご要望は、 職人の手にかかりこのように看板のフォルムを生かした「窓」として表現されました。  

after 裏側  

after 贈り主様と繋がれる窓   「昭和三十一年…」   既に60数年間、世の病める人たちや、またお見舞いや来客の方のため、 医療スタッフと共にお役目を果たしてきた看板。   その姿に、自然と感謝の念が湧いてきます。   この窓から、折に触れいつでも贈り主様の心と繋がっていただけたらと願います。     新設された榎本クリニック様の待合室は、 少しでも苦痛を癒して頂けるよう、異なる赴きのいくつかのスペースに区切られ、患者様をお迎えします。   after 特製の台座に立てかけられました     after 待合室の「畳のコーナー」に落ち着きました   その待合室の一角に『仁術』看板は、毅然として、そしてやさしく見守るように飾られることになりました。   贈り主様の気持ちと、榎本クリニック様の気持ちが、見事に「カタチ」になり、次代へ伝え続けられる額装品が仕上がりました。   今回の額装を手掛ける中で、私たちは感じました。 榎本クリニック様は、「医は『仁術』なり」を大切に考え、ひた向きに実践する、 患者様にとってなくてはならない「こころとからだの拠りどころ」なのだと。   『仁術』の看板が今までそうして来たように、これからは額の中から、ずっと、 クリニック様の在り方を物語り、また訪れる方々を見守り、そして応援し続けてくれると思います。   最後になりましたが、 この様に貴重且つ重要な額装のお役目を頂けましたことに、改めて心より感謝申し上げます。